爪ケア事件 逆転無罪確定

?自白調書を完全否定

 

 「1審判決を破棄する。被告人は無罪」。

 陶山博生裁判長が主文を読み上げると、傍聴席から大きな拍手が沸き起こった。

 肥厚した高齢者の爪ケアをめぐり07年7月に傷害罪で逮捕・起訴された、北九州八幡東病院の元看護課長の判決公判が9月16日午前、福岡高裁であり、一審の有罪判決を破棄し、逆転無罪を言い渡した。判決は元課長の今回の爪切り行為は看護師の正当業務行為であると認定した。「剥離」「剥いだ」が多用されている元課長の調書は「捜査官の意図する内容になるよう押し付けられ、あるいは誘導されたものとの疑いが残り」として、その信用性を否定し、自白強要を断罪した。一審判決が指摘した「患者家族への説明不足」等については「多少なりとも不適札さを指摘されてもやむを得ない側面もあるが、これらの事情を踏まえても、被告人の行為は看護目的でなされ、看護行為として必要性があり、手段方法も相当といえる範囲を逸脱するものとはいえず、(看護師の)正当業務行為として違法性が阻却される」とし検察側の主張を全面的に否定した。

  判決言い渡し終了後の報告集会で元看護課長は「言葉に表すことが難しいくらい、ほっとしている。検察が上告しないように祈るだけ。皆さんの支えが力強く感じた」と頭を下げた。30日までに検察は上告せず、元課長の無罪が確定した。

  弁護団の上田國廣弁護士は「素晴らしい判決を勝ち取ることが出来た。判決はオーソドックスに奇をてらわず判断している。検察は上告しないで、被告人席から開放してもらいたいというのが今後の方向になる」と評価した。また今回の高裁判決が捜査段階で作られた自白調書の信用性を否定した点に関して、「これまでの捜査段階の証拠に依存した立証でいいのかという判断の表れで、公判での証拠調べを重視するというもの。今後の裁判員制度での裁判のあり方で一定の方向性を示したものと言える」との見解も示した。

 09年3月の1審判決は高齢者の肥厚した爪ケアについて看護師の裁量であり、出血させ傷害を負わせても違法性が棄却されるとし、看護師の正当業務行為の「療養上の世話」と認めていた。しかし、元看護課長の爪ケアはそれに当たらず、理由として患者や家族への説明や経過観察の不足などを挙げていた。報告集会で、1審から弁護を続けている東敦子弁護士は「高裁判決は、家族への説明不測などは不適切だったと指摘したが、正当業務行為の判断には関係ないとした」と解説した。

 今回の高裁判決は、1審判決とは一転し元看護課長の自白調書の信用性を完全否定。1審で元課長の爪切り行為が看護師の正当業務行為に当たらない根拠の1つとした「爪を剥ぐこと自体を楽しみとし、目的とした」は「信用できない供述を前提にしている」と根拠の無さを認めた。

 また元看護課長の爪切り行為後、患者の様子を見たとし、1審段階で供述した八幡東病院の3人看護師らの証言についても、「爪床部分から点々と出血していた」「ガーゼを当てれば滲む程度」との食い違っており、しかも3人ともに「直ちに何らかの措置を取らず」ことから、判決は「被告人の爪切りによって爪床が傷つけられたことによる出血であるとまでは認定できず」とした。

  判決言い渡し後の記者会見で元看護課長は、判決が否定した自白調書が作られた当時の様子を語った。八幡東警察署での取り調べでは「爪ケアだった」といくら説明しても、刑事から執拗に「オレたちは(爪を切った後の)写真を見て判断する」「看護師ではなく、人としてどうなんだ」と言われ、「分けて物事を考えることが出来なかった。どう話していいのか分からず、その場から逃げ出したくなった」と述べた。連日長時間の取り調べで追い詰められ、刑事が描くストーリーが書かれた調書にサインした。その後、弁護士に支えられて「もう一度、本当のことを言おうと思い、話をしたら、いきなり怒鳴られて怒られ、『これまでの話は作り話だったのか』と言われ、根比べだったので辛かった」と話した。 

(2010年9月21日付)



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