週刊朝日 橋下に塩

人権委員会設置法に口実

 『週刊朝日』が渾身の力を入れたはずの緊急連載「ハシシタ」(10月26日号、16日発売)は、近く予定される衆議院選挙の第三極的存在として注目を集めている日本維新の会党首の橋下徹大阪市長の政治姿勢、国政ビジョンを広く読者に問うものと期待された。

前宣伝は佐野眞一+本誌取材班「ハシシタ 救世主か衆愚の王か 奴の本姓」とインパクトがあった。発売を待って買いもめた読者は一読して、その内容に落胆、期待外れに憤慨した。橋下氏の出自への的はずれな攻撃は、人気が凋落気味の橋下氏に「塩を送る行為」「橋下にとって神風だ」との批判がネットや他社の週刊誌に溢れた。

発行元の朝日新聞出版は10月18日、河畠大四・週刊朝日編集長が「おわび」のコメントを発表した。主旨は「記事中で同和地区を特定するような表現など、不適切な記述が複数あり・・。差別を是認したり、助長したりする意図は毛頭ないが、不適切な記述について、深刻に受け止め、次号で『おわび』を掲載する」というものだった。25日には朝日の第三者機関「報道と人権委員会」に審理を要請すると26日には河畠編集長を更迭した。

当事者の橋下氏は18日の定例記者会見で「僕の人格を否定する根拠として、先祖や縁戚、DNAを挙げて過去を暴き出していくのは公人としても認められない」と激しく批判。記事の内容が家族の出自や旧同和地区の地名に触れたことについて「血脈主義につながる危険な思想、日本社会で許されない言論活動」と非難、朝日新聞関連の取材には一切応じないと息巻いた。

橋下氏の批判に『週刊朝日』側は翌19日、緊急連載の2回以降の中止を発表した。『週刊朝日』11月2日号で、河畠編集長名で巻頭2ページに「おわび」を掲載。主旨は「緊急連載で同和地区を特定するなど極めて不適切な記述を複数掲載・・、タイトルも適切ではなかった。・・次の衆院選では、第三極として台風の目になるとも言われる政治家・橋下氏の人物像に迫るのが狙い。差別を是認したり助長する意図はないが、不適切な表現があり、ジャーナリズムにとって最も重視すべき人権に著しく配慮を欠くものになった」と弁解の余地もないと全面平伏の内容。

この内容は「解同」(部落解放同盟)の確認・糾弾会で「差別者」と追及されて、無条件に解同側の理不尽な攻撃に、一切反論せずに唯々諾々としたがう負け犬の姿を彷彿させる。日本の言論界の「雄」と目される朝日新聞を知るものとしては残念である。

橋下氏の出自や家族、縁戚については昨年11月、『新潮45』でノンフィクション作家・上原善弘氏が「最も危険な政治家」橋下徹研究「孤独なポピュリストの原点」―死亡した実父は暴力団組員だった。これまで一度も書かれなかった橋下徹の真実―として特集している。連載を中止した『週刊朝日』で佐野氏が描写した内容は上原氏の特集を追認したものが多い。上原氏によれば、取材に橋下氏は応じなかったという。週刊新潮や週刊文春での橋下氏の出自報道には橋下氏本人は今回ほど抗議せず、「解同」や自由同和会が抗議文を出版社に突きつけた。

なぜ今回、橋下氏は激高したのか。橋下氏は22日、朝日新聞出版に対し「人間じゃない。鬼畜、犬猫以下。矯正不可能」などと激怒。佐野氏についても「向こうはペンの力で僕(や家族)を殺しにきた。佐野を抹殺しに行かないといけない。(佐野は)僕と同じくらい異常人格者だ。佐野のルーツを暴いてほしい」など恫喝まがいに語ったという。

これは言論には言論で反論という域を超えた恫喝、暴力で言論を弾圧する言論封殺である。政府権力や政治家といった公人の言動についてマスコミは国民の知る権利を代理して取材、批判する。筆禍事件もままあるが、事実や真実に基づき検証されなければならない。無条件に全面屈服は報道の自由の自殺行為であり、なによりも恐れるのは朝日新聞の「解同」追従である。これまでも「解同」の確認・糾弾に法的根拠を与えかねない「人権擁護法案」の成立を唯一、新聞界で支持してきたのが朝日新聞であった。今回の『週刊朝日』事件を契機に朝日の「人権委員会設置法」賛成の論調が一気に加速しかねない。

さらに問題なのは、当初目的の政局の第三極批判が、『週刊朝日』のちょんぼ、橋下日本維新の会躍進に弾みをつけさせる逆効果になりそうだ。

植山光朗

(2012年11月1日付)

 



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